STORY
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家具職人として毎日木と向き合っていると、
身の回りの生活道具は、全て木で作りたい!と思ってしまいます。
「薪ストーブも木で作れないかな?」なんてことも考える。
どこの商業施設にも入り口に車椅子が置いてあります。
街を歩いていても、車椅子に乗った人を見かける。
でも、そのどれもが、無機質な金属製です。
そしてデザイン的にも機能重視なもの。
自分の身につけているもので、心が温かくなったり、
気持ちが上向きになることってあると思う。
だから、素材とデザインってとても大切だと思います。
『僕が車椅子を使うことになった時、こんな車椅子と共に歩きたい』
そんなことを思って、試作を始めたのが2011年。
最も難関は、前車輪のキャスター部分。
ここは荷重がかかるし、ちょっとした段差を乗り越える時に、ものすごい衝撃がかかる。
最初、仕口(しくち)で組もうとしたのですが、どんな強固な仕口でも、
いずれ緩んで壊れてしまうだろう。
衝撃に耐えうるには、曲木(まげき)しかない!でも、
木がこんな風に曲がるだろうか?
いろんな人に相談しても、ここは金属しかないでしょ。
金属の表面に薄い木を貼れば?っと。
でも僕はそれは嫌だったんですよね。
なんか嘘ついてるみたいで。
それで一番最初に、このキャスター部分の曲木の試作をしました。
何度何度も失敗を重ね、2年後、ようやくここまで木を曲げることに成功しました。
この曲木ができるようになったことで、「車椅子、行ける!」と確信しました。
この車椅子には、
その他にも、ハンドル、ブレーキシステム、手押しハンドルなど、
いろんな箇所に曲木の技術を使っています。
ここで本当は企業秘密の曲木の技術的なことを公表してしまいます。
そもそも木がこんな風に曲がるわけがないんです。
でも、【開発者の想い】に記載したように、木には魂があって、“気持ち”とか“想い”がある。
なので、曲木の加工をする時、僕たちはいつも、
「お願い、曲ってね。」と心で祈ったり、声をかけながら曲げています。
そうすると、木はその願いに応えてくれるのです。
僕たちはこんな気持ちで、美しい木の車椅子を作っています。
WORKS
樹種
ウォールナット
座面
布
高校3年生の宙くんに製作した車椅子。
宙くんは上半身は障害がなく、テニス、野球、カヤックなどのスポーツも積極的にやるような活発な方なので、動きを邪魔しないように、できるだけ背もたれを低くしました。
操作性、回転性をよくすると共に、車輪に傾斜をつけて、安定性も両立。
なんか誰も乗っていないくても、ダンスし始めちゃうような、躍動感のある車椅子です。
樹種
ウォールナット
座面
本革(濃茶)
ウォールナットと本革の組み合わせは、とても高級感があっていいですね。
主にリビングで使うこということで、既存のダイニングテーブルの下にアームが入るように、アームの先端を斜めに傾斜させています。
その昔、椅子は“座る”という目的のほか、その人の“地位”の象徴でもあったのです。
国立大学の名誉教授のOさんに相応しい、品格と凛々しさを感じられる車椅子です。
樹種
アメリカングラックチェリー
座面
布
“美しい木の車椅子”のパーツの試作を開始したのが2011年。
試行錯誤を繰り返し、初号機が完成したのが2013年。欠陥だらけでした。
それから仕事の合間に試作を繰り返し、改善点を見つけ出しては改善案を捻り出し、試作機を作ってまた改善点を洗い出す。そんな地道な作業を繰り返し、やっと僕の中で世に出せる納得のレベルで完成したのがこの6号機。
オーソドックスでオールマイティーな、旅する木の木の車椅子。
高級感のウォールナットに対し、チェリーは、ほっとする優しさを感じさせてくれます。
樹種
ウォールナット
「私、普通の歩行器はいやなの。だってカッコ悪いじゃない。
あなたが作る車椅子、素敵じゃない?あの車椅子のような雰囲気の歩行器で散歩したいの。」
という90歳のおばあちゃん。
なんてハイカラなおばあちゃんなんでしょう!
お陰でこんな素敵な歩行器が生まれました。
「歩いていると、みんな振り向いたり、声をかけてくれて嬉しい。」と喜んでくれています。
樹種
アメリカングラックチェリー
座面
合皮(白)
「こんな車椅子に乗って頑張っている姿を生徒が見たら、きっと勇気づけられると思う。」
23歳の教職員の女性に製作した車椅子。
残念ながら中止になってしましたが、東京オリンピックの聖火ランナーとして、この車椅子で札幌市内を走る予定でした。
優しいチェリーと、清潔感のある白の座と背。
生徒思いで責任感のある、可愛らしいMさんにとってもよく似合う車椅子です。